脇の下にしこりを見つけると、不安に思う方も多いのではないでしょうか。しこりができる原因は様々ですが、リンパ腫や副乳、まれに乳がんといった深刻な病気まで考えられます。そのため、痛みがないからといって放置することは非常に危険です。早期発見と検査、そして適切な治療が、体への負担を軽減し、健康維持にとって重要になります。
本記事では、脇の下にしこりができる原因や症状、そして正しい治療法について詳しく解説します。
脇の下にできるしこりとは?
脇の下にできるしこりは、皮膚の表面や皮膚の奥にできる硬い塊や腫れ、できもののことを指します。このしこりは、脇の下の中でもどこに発症するかによって原因や考えられる病気が異なります。
発症部位 | 疾患名 |
---|---|
腕の付け根付近 | 副乳、粉瘤 |
脇の中心部分 | リンパ腫、化膿性汗腺炎 |
胸側(乳腺の外れ) | 乳がん |
まず、腕の付け根付近にできるしこりは、副乳や粉瘤であることが多いです。これらはほとんどの場合良性なので、特に心配いりません。
一方、脇の凹んだ中心部分にできたしこりは、リンパ節の腫れが原因で、感染症や炎症によるものが多いです。そして、この部位にできるしこりは悪性腫瘍(ガン)の可能性もあるため、特に注意してください。また、脇の凹んだ部分より更に胸側、乳腺の外れにできるしこりは乳腺の腫瘍である可能性があります。
乳腺腫瘍と乳がんは見分けが難しいため、自己判断や放置をせずに、早めに病院で検査を行うようにしましょう。しこりがあっても痛みが伴わないと、多くの人は放置しがちです。しかし、予期せぬ病気が潜んでいることもあります。「急にしこりができた」「次第に大きくなった」など、しこりに気づいた時には、早めに対処しましょう。
脇の下にできやすい病気の種類と原因
脇の下にできやすいとされる病気は、以下の5つがあります。
- ・乳がん
- ・粉瘤
- ・副乳
- ・リンパ腫
- ・化膿性汗腺炎
ここでは、それぞれ症状の特徴や原因について詳しく解説していきます。
乳がん
乳がんに気付く方のほとんどが、しこりの発見によるものです。腫瘍が約1cm以上になると触って分かるようになるため、乳がん患者の多くはこのしこりの自覚症状で病気に気づくことが多いです。特徴的な症状としては、痛みがない、動きにくい、硬いなどがあります。
一方、乳がん以外のしこりは弾力性があり、触るとゴロゴロとしこりが動きやすいです。そのため、触っても動きにくいしこりは、特に注意しましょう。乳がんの原因は、普段の食事による栄養分や分泌ホルモンが関係しています。また、高齢出産の経験がある・出産経験がない・親族に乳がん患者がいるなど、の要因が考えられると言われています。
粉瘤
粉瘤は体のどこにでも発生する腫瘍ですが、特に脇や背中、おしりにできやすいと言われています。症状としては、袋状の塊ができて、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まることでしこりのような膨らみができます。そしてしこりの中央に黒い小さな穴があり、その周辺を強く押すと中に溜まった老廃物が放出されて異臭を放つことがあります。
皮膚にしこりができて自然と消えない場合は、粉瘤の可能性が高いです。粉瘤は、少しずつ大きくなり、自然に消えることはほとんどありません。原因は明確に分かっておらず、悪化する前に適切な治療を行うことが大切です。
副乳
乳房以外の部分に乳腺があることを、副乳と呼びます。副乳は生まれつきのもので、表面が茶色っぽいあざのように見えたり、しこりとして気付くことが多いです。これは脇や乳房の下、足の付け根部分にできやすく、ほくろと間違えて気付いていない方もいます。
そして、副乳は稀なものではなく、女性でいうと5%、男性だと1.5%※の割合で発生しています。原因はいまだに明らかになっていませんが、遺伝的な要因があると考えられています。目立って気になったり、症状があるときは治療が必要です。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫とは、ガンの一種です。初期症状として、痛みを伴わないしこりが脇の下や口、足などにできることがあります。稀に、急速にしこり部分の腫れが大きくなると、痛みを感じることもあります。特徴として、しこり部分は硬く、押しても動かないことが挙げられます。また、しこり部分は少しずつ大きくなっていきます。原因は判明していないですが、ウイルスなどの感染によって、悪性リンパ腫になるケースも報告されています。
化膿性汗腺炎
化膿性汗腺炎は、痛みを伴うしこりができる皮膚の病気です。できやすい部位は、脇の下やお尻、あしの付け根、胸の下などです。このしこりは、20~40歳代の人に多く見られます。皮膚にある毛包(毛根を包む皮膚の組織)に炎症が起こることで、赤く腫れあがったしこりを形成します。
悪化すると膿が溜まり、破れてしまうと傷跡が残りやすいです。また、再発を繰り返すことで太い縄のような傷跡が残ってしまうため、美容的観点から見ても早めの治療が大切です。原因は明確ではないですが、遺伝的な要因や喫煙者、肥満の方に多いと言われています。
しこりは放置しても問題ない?
脇の下のしこりには、自然治癒するものや症状が軽いものまで様々な可能性が考えられますが、悪性腫瘍(ガン)の可能性もある以上、楽観視せずにまずは受診をすることが大切です。
先ほど紹介した5つの病気のうち、副乳は一時的に痛みを感じることもありますが、基本的には時間と共に治まってきます。しかし、前述した他の4つの病気については、早期の診察と治療が重要です。特に、乳がんや悪性リンパ腫の場合、早期発見が重要視されている病気です。一般的に悪性(ガン)の場合は、しこり部分を押しても動かないという特徴があります。しこり部分を押してみて、動きがない場合は早めに病院を受診しましょう。
粉瘤や化膿性汗腺炎は、悪性の可能性が少ない病気ですが、自然に治ることはほとんどありません。放置することで、しこりが徐々に大きくなり、炎症や悪化を引き起こす可能性があります。そして、悪化した場合傷跡が残りやすいため、美容的な観点から見ても、早めに治療を行うようにしましょう。
脇にしこりを見つけた場合は、自分で病気の判断が難しいです。最悪の場合、悪性のガンの可能性も否定できないため、専門の医者に相談するようにしましょう。
症状に応じた正しい治療法
脇の下のしこりは、病名や状態によって治療法は大きく異なります。ここでは、代表的な治療法である、手術、塗り薬、薬物投与による治療について解説します。
先ほど紹介した5つの病気には、主に下記の治療法があります。
病気の種類 | 治療法 |
---|---|
乳がん | 手術(部分切除・全摘術)、放射線治療、ホルモン治療など |
粉瘤 | 手術(くりぬき法・切開法)など |
副乳 | 手術 |
悪性リンパ腫 | 抗がん剤治療、放射線治療など |
化膿性汗腺炎 | 抗菌薬の内服、塗り薬、手術など |
手術による治療
乳がんや粉瘤、副乳、化膿性汗腺炎の治療には、外科手術が行われることがあります。
手術では皮膚を切開して、しこりや悪性部分を取り除いていきます。特に症状が軽度の粉瘤の場合は、切開せずに小さな穴を空けて廃物を摘出する「くりぬき法」を採用することもあります。
手術と聞くと不安に思う方も多いですが、事前に精密な検査を行い、医師による説明を受けるので心配する必要はありません。そして、全身麻酔や局所麻酔を使用するので、痛みに不安がある方も安心して受けることが可能です。
塗り薬の薬物療法
化膿性汗腺炎の治療には、塗り薬を使用して治療する場合があります。また、塗り薬と併用して注射を行う場合もあり、症状や患者の希望に応じて治療法が異なることが多いです。
塗り薬の治療では、手術とは異なり、効果が現れるまでに比較的時間がかかります。しかし、体や精神的な負担が少ない治療法で、最も手軽な治療法です。
また、薬局などで市販薬も多く販売されていますが、市販薬の使用はおすすめしません。根本的な改善を希望する場合は、医師による投薬や治療計画が必要になるでしょう。
飲み薬の投与
軽度の化膿性汗腺炎の場合、飲み薬による治療ができます。効果が出るまでに時間がかかり、2~3ヶ月程度飲み続ける必要があります。
同様に、乳がんの治療でもホルモン療法の飲み薬が使用されることがあります。飲み薬では、複数の薬剤を使用でき、痛みがなく、日常生活に支障をきたさずに治療できるため、手軽に治療できる方法の一つです。
しかし、完治に時間がかかり、副作用の可能性があること、他の治療と併用する必要があるなど、デメリットもあります。症状や病状の進行具合を考慮し、正しい治療法を選ぶことが大切です。
まとめ
脇の下にしこりを見つけた場合、早めの治療をおすすめします。
病気の種類によっては、緊急性が低い場合もありますが、悪性腫瘍(ガン)の可能性や将来的に傷跡に残ってしまう場合もあります。
痛みがないからといって放置する方も多いですが、早期発見と適切な治療が重要です。
本院では、傷跡が目立たない治療を得意とする、形成外科専門医が治療にあたっています。脇の下にできる様々なしこりの診断を行っていますので、お気軽にご相談ください。
院長紹介
日本形成外科学会 専門医 古林 玄
私は大阪医科大学を卒業後、大阪医科大学附属病院、市立奈良病院を経て東京へ行き、がん研有明病院、聖路加国際病院で形成外科の専門医として様々な手術の経験を積んできました。
がん研有明病院では再建症例を中心に形成外科分野の治療を行い、乳房再建および整形外科分野の再建を中心に手術を行ってきました。聖路加国際病院では整容的な面から顔面領域の形態手術、また、先天性疾患、手の外科、全身の再建手術に携わって参りました。
この経験を活かし、全身における腫瘍切除を形成外科的に適切な切除を目指し、傷跡の目立たない治療を提供できればと考えております。
関連記事
できものから膿が出た場合は治療が必要?放置のリスクと正しい治療法