化膿性汗腺炎が重症化する原因と対策は?早期発見の重要性

化膿性汗腺炎は、放置していると重症化しやすく、皮膚の深部まで炎症が広がることがあります。

化膿性汗腺炎が重症化すると、QOL(生活の質)が大きく低下し、日常生活に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。そのため、化膿性汗腺炎は早期発見と適切な治療が極めて重要です。

この記事では、化膿性汗腺炎が重症化する主な原因や悪化を防ぐための対策について解説します。

早期の診断と治療の重要性について理解し、症状を悪化させないために自分でできることを確認しましょう。

化膿性汗腺炎の重症度

化膿性汗腺炎は、症状の広がりや程度によって重症度が異なり、「Hurley(ハーレー)分類」と呼ばれるシステムで3つのステージに分類されます。

日本皮膚科学会は、大規模病院で行われた調査にもとづき、それぞれのステージごとの罹患者の割合も発表しました。

ただし、受診する医療機関がすべてHurley分類に則って診察しているとは限りません。医療機関によって異なるケースもあるため注意しましょう。

Hurley分類 症状 日本における罹患者の比率
I期(軽度) しこりや膿瘍が単発的に現れる
瘢痕や瘻孔は形成されない
32%
II期(中等度) 複数のしこりや膿腫が現れる
瘻孔が形成される
38%
III期(重度) トンネル状の瘻孔が複数形成されつながる
瘢痕が残る場合がある
30%

なお、III期の罹患者の比率はフランスで4%、ベルギーで1%と、非常に低い水準となっています。

日本でIII期の罹患者が多く報告されている背景には、調査対象が大学病院など大規模な医療機関に集中していたことが理由と考えられています。高度な医療機関には、より重症な患者が紹介されることが多いためです。

参照:日本皮膚科学会雑誌第131巻第1号[PDF]

化膿性汗腺炎の初期症状から重症化までの過程

化膿性汗腺炎の初期症状から重症化するまでの過程は以下のとおりです。

【1.初期段階】結節(けっせつ)・膿瘍(のうよう)の発生

化膿性汗腺炎の初期段階では、毛穴の周辺が腫れ、結節や膿瘍が発生します。結節は「しこり」、膿瘍は「膿のたまったできもの」のことです。

結節や膿瘍は摩擦や圧迫を受けやすい箇所に好発しやすく、特に脇の下や鼠径部(足の付け根)、乳房の下、臀部などが代表的な発生場所です。痛みを伴うことが多く、特に圧迫された際に痛みが強くなることが特徴です。

【2.中期段階】複数の膿瘍の発生・瘻孔(ろうこう)の形成

中期段階になると、複数の結節や膿瘍が同時に出現し、これらが合体して大きな病変に成長することがあります。また、膿瘍から膿が出たり破裂したりすることで、患部が炎症を起こし症状が悪化します。

炎症が進行すると瘻孔が形成され、皮膚内部で複数の瘻孔がつながることがあります。瘻孔とは、膿瘍同士が皮膚の内部でつながり、トンネル状の組織が形成されることです。瘻孔は非常に治りにくく、慢性化する傾向が強いため、長期的なケアが必要になります。

【3.重症段階】皮膚内部で膿瘍や瘻孔が広範囲に形成

重症段階になると、病変が広範囲に広がり、大規模な炎症を引き起こします。膿瘍や瘻孔が広い範囲で複雑に絡み合い、症状がさらに悪化します。

膿が常に出るようになり、排出された膿は悪臭を発することもあります。慢性的な炎症が続くことで強い痛みが生じ、日常生活に支障をきたすこともあります。

【4.重症段階】瘢痕

1~3の段階を慢性的に繰り返すことで、患部の皮膚が硬化し、縄状の瘢痕が形成されます。病変部分が肥厚し、外見にも明らかな変化が生じます。再発することが多いため、治療を受けていても完全に症状が治まらないケースも少なくありません。

病変が皮膚の可動性を低下させることもあるため、歩行や座るなど、日常的な動作が困難になることもあります。症状が重症化することでQOL(生活の質)が著しく低下するため、身体的な苦痛だけではなく、精神的にも大きな負担となります。

化膿性汗腺炎が重症化する原因

化膿性汗腺炎が重症化する主な原因は、以下のとおりです。

原因 理由
肥満 肥満が進行すると、皮膚の摩擦や汗の量が増加し、炎症や感染のリスクが高まる
喫煙 タバコに含まれる化学物質が炎症反応を悪化させ、皮膚の回復力を低下させる
摩擦や圧迫 衣類や体の動きによって摩擦が生じると、病変が刺激され悪化することがある
適切な治療の遅れ 初期段階で見逃され治療が遅れると病状が進行しやすく、慢性化しやすくなる
精神的ストレス ストレスがホルモンバランスの乱れや免疫機能の低下を招き、症状が悪化することがある

重症化すると治療に時間がかかり、QOLに大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、重症化する前に適切な予防対策を講じることが非常に重要です。

化膿性汗腺炎の治療方法と受診すべき診療科

化膿性汗腺炎の治療方法は、内科的治療(薬物療法)と外科的治療(外科手術)の2種類があります。治療方針は重症度に応じて異なり、それに応じて受診すべき診療科も変わります。

内科的治療

軽度から中等度の化膿性汗腺炎の場合、内科的治療(薬物療法)が一般的に選択されます。抗生物質や抗炎症薬などを使用し、炎症を抑えながら症状をコントロールします。

受診すべき診療科は、「皮膚科」です。皮膚科の医師は、症状の重症度を診察し、適切な治療計画を立てます。外科治療が必要な場合でも、まずは皮膚科での診察を受けることが推奨されます。

外科的治療

症状が進行し、薬物療法では治療が難しい場合は外科的治療(外科手術)が行われます。患部を切開して膿を排出したり、病変組織そのものを切除したりします。慢性的な炎症や感染を軽減し、症状の改善を図ります。

外科治療を行う際に受診すべき診療科は、「形成外科」です。形成外科では、より専門的な技術を用いて手術が行われ、場合によっては皮膚の再建手術を行うこともあります。再建手術は、手術後の機能回復や外見の改善を目的としており、患者のQOLを向上させるために重要な役割を果たします。

化膿性汗腺炎の重症化を防ぐための対策

化膿性汗腺炎の重症化を防ぐための対策は以下のとおりです。

早期診断と治療

化膿性汗腺炎は進行性の病気であるため、初期段階での診断と治療が非常に重要です。症状が軽度のうちに医師の診察を受け、適切な治療を開始することで、病気の進行や重症化を防げます。

症状が軽減したと感じても、自己判断で治療を中断せず、定期的に医師の診察を受けることが大切です。治療の継続は、病状の再発や進行を防ぐために欠かせません。また、定期的なフォローアップにより、病状の変化や新たな症状に早期に対応できます。

生活習慣の見直しと改善

以下のような生活習慣を見直し、改善することも重要です。

項目 ポイント
体重管理 肥満は重症化のリスクを高めるため、バランスの良い食事と適度な運動を取り入れる
禁煙 喫煙が炎症を悪化させる要因となるため、禁煙が推奨される
ストレス管理 ストレスは免疫力に影響を与えるため、自分に合ったリフレッシュ方法を見つけ、ストレスを軽減させる

生活習慣を見直すことで、症状の悪化を防ぐ効果が期待できます。症状が軽減されれば、日常生活の質も向上し、精神的な健康も促進されるでしょう。自分自身の健康を意識し、積極的に改善策を取り入れることが大切です。

適切なスキンケアと衛生管理

症状の悪化や二次感染を防ぐためには、適切なスキンケアと衛生管理を徹底することが大切です。特に、感染が多い部位(脇の下や鼠径部など)は清潔に保つことを心がけましょう。

肌を清潔に保つことは重要ですが、強く擦ったり刺激の強い製品を使用したりすると、症状が悪化する原因となるため注意が必要です。また、乾燥を防ぐために、肌を保湿することも忘れないようにしましょう。適切な保湿を行うことで、皮膚のバリア機能を維持し、外的刺激から肌を守れます。

また、摩擦や圧迫を防ぐために、タイトな衣服はできるだけ避け、通気性のよいゆったりとした衣服を選ぶことも効果的です。

まとめ

化膿性汗腺炎は、重症化すると日常生活に大きな支障をきたします。重症化を防ぐためには、症状を見逃さず早期発見することと、適切な治療を受けることが重要です。

また、医師の診察を通じて、生活習慣の見直しや適切なスキンケアなどを心がけることも大切です。少しでも異変を感じた場合は、できるだけ早めに医師に相談しましょう。

院長紹介

日本形成外科学会 専門医 古林 玄

東京皮膚のできものと粉瘤クリニックふるばやし形成外科 新宿院 院長 古林 玄

私は大阪医科大学を卒業後、大阪医科大学附属病院、市立奈良病院を経て東京へ行き、がん研有明病院、聖路加国際病院で形成外科の専門医として様々な手術の経験を積んできました。

がん研有明病院では再建症例を中心に形成外科分野の治療を行い、乳房再建および整形外科分野の再建を中心に手術を行ってきました。聖路加国際病院では整容的な面から顔面領域の形態手術、また、先天性疾患、手の外科、全身の再建手術に携わって参りました。

この経験を活かし、全身における腫瘍切除を形成外科的に適切な切除を目指し、傷跡の目立たない治療を提供できればと考えております。

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