肘の腫瘍(しこり、できもの) /形成外科医が徹底解説
肘にも様々な腫瘍(しこり、できもの)が出来ます。
粉瘤や脂肪腫、血管腫はどこにでも出来ますが、滑液包炎という特徴的なしこりが出来る部位でもあります。他には痛風結節も出来やすい部位になります。
いずれも良性腫瘍の場合が多いですが、エコーやMRIなどで検査を行い、腫瘍を摘出し、悪性との鑑別を行うことがあります。
滑液包炎とは
滑液包は簡単に説明すると、カラダの中にあるクッションです。日常生活でよくこすれる部位(肘、お尻、筋肉、腱、靭帯)に存在し、液体状の平たい袋です。
これが日々の習慣で肘を長時間ついていたり、滑液包のある部位を酷使し過ぎた場合に炎症を起こします。皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌が感染する場合もあります。また痛風、偽痛風、関節リウマチ、ケガで出来ることもあります。
滑液包炎は炎症が起こっているため、当然、痛みを伴います。動かすと痛みがあるため、安静も大事です。時には炎症が強くなり、皮膚を突き破ることもあります。そのため、炎症性粉瘤と間違われることがあります。
治療は主に安静、痛み止め、抗炎症薬を使用して経過をみるか、ケナコルト注射を行い炎症を鎮める場合もあります。しかし、それでも治療が難しい場合には外科的切除も考慮します。感染している場合には切開排膿を行ったり、抗生剤の内服や点滴を考慮します。
形成外科専門医
古林玄
稗粒腫と粉瘤の違いについて専門医が徹底解説
稗粒腫(はいりゅうしゅ、ひりゅうしゅ)とは
眼の周りによく出来る1、2mmの白色の小さな腫瘤です。原因ははっきりとは分かっていませんが、主に肌のターンオーバーが遅れることで、皮膚の中に角質が溜まってしまいます。また生まれつきある方や外傷、日焼け、化学的な損傷などにより出来ることもあります。
治療
18Gの注射針の先などで皮膚を小さく切り開いて内容物を取り出す事が多いです。何度も繰り返す場合には角質をつくる袋自体を取り除くこともあります。
稗粒腫と間違えやすい腫瘍
汗管腫(かんかんしゅ)、扁平疣贅(いぼ)、ニキビ、脂腺過形成、水イボなど
稗粒腫と粉瘤の違い
稗粒腫は、小さいですが粉瘤との構造はほとんど同じです。両者とも皮膚の老廃物が溜まるという点では同じです。
構造が同じですが違う点があるとすれば、稗粒腫は皮膚の浅い部位、粉瘤は少し深い部位にできます出来方が違うため、そのような差がでます。そのため、治療も少し変わってきます。
稗粒腫は肌の体質改善でもある程度治療が出来るため、内容物を圧出するだけで治癒することが出来ますが、粉瘤は必ず袋を取らなければ再発してしまいますし、置いておくと炎症する場合が多いです。
予防
肌のターンオーバーの遅れにより古い角質が溜まり稗粒腫が出来ることもあるため、ピーリングを行うこともあります。
また日焼けの予防や保湿など肌の基本的なケアも大切になります。
監修:形成外科専門医 古林玄
おでこにできたデキモノ 外骨腫の治療/日帰り
今回の症例はおでこの外骨腫です。外骨腫についてはこちらで詳しく解説ししています。
オデコのしこり、デキモノの中には外骨腫という腫瘍があります。
外骨腫はあまり聞きなれない腫瘍かもしれませんが、粉瘤や脂肪腫と非常によく間違えられやすい腫瘍です。
外骨腫は非常に硬く粉瘤や脂肪腫とは全然硬さが違いますし、可動性も全くありません。しかし、触診だけでは皮膚自体がよく動くため診断に苦慮します。
場合によってはCT検査を行い、精査する場合もあります。
今回の症例もおでこの1㎝程の小さな腫瘍ですが、見た目ではかなりくっきり膨らみが出てしまいます。ほとんどが良性ですが整容面的にも切除を希望する場合が多いです。
動画は下に載せています。
腫瘍より少し上から切開を加え、前頭筋を剥離し、骨膜上までアプローチします。その際に神経には気を付けなければいけません。骨膜にアプローチが出来れば、エレバラスパを使い、骨膜下の剥離を行います。
十分に剥離を終えたところでツチとノミを使用し、腫瘍の切除を行います。
やってる事は大工さんと同じです。
コンコンすると腫瘍が簡単に切除できます。
とてもきれいに摘出できました。
創部を縫合し、手術を終了します。出血もほとんどなく日帰りで手術出来てしまいます。
これくらいの腫瘍であれば局所麻酔で十分に出来てしまいます。
術後
術後は軟膏処置またはバイオヘッシブで固定を行い、1週間後に抜糸します。
形成外科専門医 古林玄
粉瘤と間違えやすい腫瘍【外毛根鞘性嚢腫】症状/治療法
外毛根鞘性嚢腫とは
ほとんどが頭部にできます。粉瘤と同様に少しずつ大きくなり、被膜が破れ、内容物が皮膚の中で漏出すると異物反応が起こり、炎症が始まります。診察では粉瘤と区別することは出来ません。
病理組織は最外層壁は基底細胞様細胞が棚状配列し, 内層壁は層状構造を示し, 顆粒層がなく、角化を認める。
腫瘍自体はほとんどが良性です。女性に比較的多く、40-50歳代で多くなります。
腫瘍が大きくなると毛根に影響を与えてしまい、毛髪がチヂレたり、ハゲになったりします。炎症した場合には毛根のダメージは大きくなり、大きなハゲを作ってしまう場合もあります。
まれに、悪性腫瘍がみつかる場合もあるので注意が必要です。
原因
粉瘤同様にはっきりとは分かっていません。
診断
エコーにて診断できます。特徴は、皮下に存在する境界明瞭、辺縁整な低~無エコー腫瘤。内部に石灰化を疑う高エコースポットを認める。
炎症が起こるとエコーでの臨床像に変化が起こります。大きい場合にはCTやMRI検査を行う場合もあります。
鑑別疾患
粉瘤、外骨腫、石灰化上皮腫、脂肪腫など
治療
手術による摘出を行います。くりぬき法で摘出することが出来ます。炎症を繰り返す場合には切開による摘出を考慮します。
毛髪が失われている場合には注意が必要です。腫瘍を摘出し、約半年は毛髪の経過を診ます。腫瘍を摘出することで、毛髪が正常になる部位があるからです。それでも生えない場合には再手術を行い、ハゲの部位を切り取ります。そうすることで創部は目立たなくなります。
今回の症例ではくりぬき法で毛髪に影響を与えている部位をくり抜きました。
内容物を圧排し、腫瘍を小さくします。
外毛根鞘性嚢腫の場合には粉瘤に比べると、被膜がかなりしっかりしている場合が多いです。そのため、腫瘍がしっかりと一塊で摘出出来ます。
創部を縫合して手術を終了します。
形成外科専門医 古林玄
デルモイドシストの症状/治療を専門医が徹底解説
デルモイドシスト(dermoido cyst:皮様嚢腫)とは
粉瘤と間違えやすい腫瘍としてデルモイドシストが挙げられます。
デルモイドシストは胎生期の遺残物で目の上、鼻周囲、耳の裏などの骨縫合部などに出来やすく、腫瘍の内容物は黄色の液体(皮脂、角質)と毛髪が貯留している。約半数で出生時より腫瘍を認める。
男女比は特にありません。
汗腺や皮脂腺の発達する思春期に急速増大を認め、その際に見つかることもある。
症状
基本的には特にありません。ぶつけたり触ったりすることで腫瘍の嚢胞が破れると異物反応が起こり、炎症が起きることがあります。炎症が起きると疼痛があり、瘢痕が残ります。
原因
原因ははっきり分かりませんが、発生過程で骨と骨が癒合する際に,外胚葉組織の迷入が生じるためと考えられています。
診断
ほとんどはエコーで診断がつきますが、大きい腫瘍ではCTやMRIを撮影する場合もあります。
鑑別疾患
粉瘤、奇形種、石灰化上皮腫、類表皮腫、神経線維腫、毛髪嚢腫、など
治療
手術による摘出が必要になります。
粉瘤とは違い骨の癒合部位から発生しているため、手術は粉瘤の摘出よりは格段に難しくなります。また、腫瘍は筋層より深くなるため、術後の血腫や神経損傷にも気を付ける必要があります。基本的には切開による腫瘍摘出になります。
小児では全身麻酔が必要な場合もあります。
今回の症例では眉下に切開を加える事で出来るだけ術後の傷跡が目立ちにくいようにします。
腫瘍は眼輪筋の下にあり、少し出血が多くなります。
腫瘍を骨膜の癒着部位から剥離し、腫瘍を摘出します。
腫瘍を摘出し、十分にバイポーラを使用し、止血します。
創部は眉毛下に重なり、毛髪も生えてくるため、傷は目立ちにくくなります。
腫瘍を切開し、中身を確認しました。
内容物はやはり毛髪と皮脂、角質になります。皮脂が黄色く見えています。
成人になるにつれ、どんどん大きくなってしまうため、早期の摘出をお勧めします。大きくなれば大きな切開が必要になります。
形成外科専門医 古林玄
粉瘤と間違えやすい腫瘍【ガングリオン】症状/治療法
ガングリオンとは
骨の関節と関節の間や腱と腱鞘にある滑液が何らかの原因で漏れ出てしまい、皮膚の下に腫瘍を作り出した腫瘍をガングリオンと言います。腫瘍の内容物は滑液が濃縮してゼリー状になります。腫瘍は関節の間の関節包に繋がっており、徐々に大きくなってきます。主に手関節にでき、神経などを圧迫すると痛みが生じます。
症状
ほとんどが無症状ですが、神経を圧迫すると痛みやしびれが出てきます。長期間放置していると運動麻痺が起きる事もあります。関節部位かから液が漏れ出たものであるため、手を動かし過ぎると腫瘤は大きくなります。
原因
ガングリオンができる理由ははっきりとわかっていません。若い女性に少し多い傾向があります。
診断
エコー検査で診断がつきます。また大きなものや、痛みの伴うものはMRI検査で詳しく診る場合もあります。また針で刺してゼリー状の内容物を確認することでガングリオンと診断できます。
治療
症状がなければ経過観察とします。増大傾向や痛みがあるものは治療を行います。
注射器のより内容物であるゼリーを排出する保存的療法があります。術後圧迫固定を行いますが再発率は約50%です。何度か吸引することで治ることもあります。何度も再発する場合にはケナコルトを注入することもあります。
それでも再発する場合には手術を行います。手術をしても再発する可能性もあります。論文により差はありますが再発率は約10%から40%と言われています。手術は関節から出てきている根っこを摘出する必要があり、その他の腫瘍摘出術よりは少し難しくなります。再発予防として術後の固定もとても大事になります。
形成外科専門医 古林玄
粉瘤と間違えやすい腫瘍【外骨腫】症状/治療法
外骨腫とは 外骨腫の症例はこちらに載せています。
形成外科領域では主に前額部(オデコ)や頭蓋、爪の下によく見られる良性のできものの一つです。病理組織学的には腫瘍表層部に軟骨組織を有する。
原因
原因ははっきりしていません。
爪下外骨腫では指の末節部に認め、10~20歳代の若年者に多く見られ、疼痛を伴います。前額部や頭蓋では疼痛はありませんが、整容面の問題で切除を希望する患者様が多いです。
検査・診断
エコー検査で基本的には診断出来ます。更に詳しく全体像を把握するために、CT検査を行う場合もあります。3Dで骨を捉えることが出来るため非常に有用です。
触診では少し難しいこともありますのでエコー検査は最低でも必要になります。
前額部には脂肪腫が骨上、前頭筋下に出来るため、非常に間違えやすくなります。また粉瘤も前額部にもよく出来ますので注意が必要です。
治療
基本的には手術による摘出を行います。
骨に出来る腫瘍ですが、局所麻酔で切除することが出来ます。ツチとノミを使用して、摘出します。摘出した組織は病理検査に提出します。
創部は細かく縫合することで出来るだけ目立たないようにします。
術後
術後は軟膏処置またはバイオヘッシブで固定を行い、1週間後に抜糸します。
料金
保険点数は K052 骨腫瘍切除術 4,340点 が適応されます。
その他の検査、診察代も含め、3割負担で15000円から20000円ほどになります。
形成外科専門医 古林玄
皮膚線維腫の原因/治療について専門医が徹底解説
皮膚線維腫とは
成人女性に多く、腕、大腿部や脚などに現れる硬く隆起性の腫瘍です。時折、痛みや痒みを生じますが無症状な事も多いです。
原因
原因ははっきりしていませんが、虫刺されや外傷に反応して発生することもあります。
治療
基本的には外科的切除になります。大きいものや、増加傾向にあるものは、まれにDFSP(隆起性皮膚線維肉腫)という悪性腫瘍との鑑別が必要なため、顕微鏡による検査(病理検査)を行います。大きくないものや症状のないものは経過観察とすることもあります。
病理組織では真皮内に豊富な膠原線維の増加と線維芽細胞の増殖が認められます。周辺では太い膠原線維束間への浸潤様増殖を示し、表面にメラニン沈着を有する表皮肥厚を伴います。
鑑別疾患
先ほど上げたDFSP(隆起性皮膚線維肉腫)、結節性黄色腫、母斑細胞母斑、青色母斑、悪性黒色腫などが鑑別にあげられます。また、炎症した後の粉瘤も硬く、隆起し、色素沈着を伴うことから間違えることもあります。粉瘤では硬くなってしまった場合には炎症が起こった後であり、痛みを伴っている事が多く、経過を聞くことで判別も出来ます。
その他の皮膚線維腫
背部の皮膚線維腫
足背の皮膚線維腫
形成外科専門医 古林玄