脂肪腫とは皮下にできる良性腫瘍
脂肪腫とは皮下にできる良性腫瘍のことをいいます。軟部組織の腫瘍の中で、最も多くみられます。基本的には痛みなどの症状は無く、皮膚がドーム状にふくらみ、柔らかいしこりのように触ることが可能です。脂肪腫は薄い膜に覆われていて、皮下脂肪と同じような黄色い色をしています。
原因
現在のところ発生原因はわかっていません。ただ、服が擦れるなどの外部刺激を受けやすい場所にできる傾向があることはわかっています。
また、およそ80%の脂肪腫が染色体に異常を起こしていることはわかっており、毛細血管周辺の未分化の細胞が遺伝子の異常を起こし、脂肪細胞に分化し増殖して発生したものと考えられています。
種類
脂肪腫には主に7つの種類があり、以下の通りです。
1.線維脂肪腫(fibrolipoma)
脂肪腫の中で最も多くみられ、脂肪細胞の中に膠原線維があり、被膜を有していることが多い良性の腫瘍です。痛みはなく、柔らかいしこりであり、首の後ろや背中などの圧や刺激がかかりやすい部位にできます。
放置すると徐々にサイズが大きく成長することが多い腫瘍ですが、小さい切開でつるっと取れます。
2.血管脂肪腫(angiolipoma)
一般的に脂肪腫は首や体幹にできることが多いですが、血管脂肪腫は腕にも発生し、背部、腹部、上下肢に好発します。大きさは、1㎝ほどの直径であり、脂肪細胞の隙間に毛細血管を認めます。
硬さはやや硬く、触らなくても痛かったり、押すと痛かったりするのが特徴であり、小さな切開で取れます。
3.筋脂肪腫(myolipoma)
皮膚の深部に発生し、筋肉内にもできる場合があります。後頚部(首の後ろ)に好発し、被膜が不明瞭な場合もあり、やや取りにくい腫瘍です。
完全に除去するためには、筋肉の切除もする必要があり、ある程度の切開をしないと完全に摘出できません。
4.びまん性脂肪腫
2歳以下の乳幼児に発生しますが、頻度は低い疾患です。びまん性とは全体に広がるという意味であり、体幹や上肢、下肢などの全身に広がり、皮下だけではなく内臓や筋肉にも見られます。
5.良性対側性脂肪腫
肩、上腕、胸部、腹部、太ももなどに左右対称に多発するまれな脂肪腫です。飲酒の量が多い方によく見られるといわれています。
6.脂肪腫様母斑
淡黄色に皮膚が盛り上がり、お尻や太ももに多く発生する脂肪腫です。孤発性と多発性のタイプがあり、孤発性は成人に多く、多発性は10歳以下に多いと言われています。
孤発性はドーム状に皮膚が盛り上がることが多く、多発性は腫瘍が連なって島のように盛り上がることが多いといわれています。
7.脊髄脂肪腫
胎児期に皮下の脂肪組織が脊髄に入りこむことで生じ、腰や仙骨部に好発します。脊髄神経が引っ張られるため、神経障害を起こします。神経障害の症状は、足の変形(尖足)、運動機能の障害(転びやすい、歩きづらさ)、下肢のしびれなどです。
また、尿もれや頻尿、尿路感染、便秘、腎機能障害などの症状も出現します。
発生時期
発生するのは幼少期と言われていますが、初めのうちは小さく発見されず、20歳以下での発見は少ないと言われています。
そのため、発見されるのは40~50歳代、男性よりも女性に多く、肥満者に多いとされています。
発生部位
背中、肩、首に多く、次に腕、お尻、太ももなどの体幹に近い四肢に見られます。顔、頭、ふくらはぎ、足などにできることはまれです。
大きさ
数ミリから直径が10㎝以上になるものもあります。比較的サイズが大きい場合(5cm以上)や数ヶ月で大きく成長する場合には、悪性腫瘍である脂肪肉腫との鑑別を目的に組織を採取して診断する必要があります。
脂肪腫の診断方法
多くのものは外来で診察可能ですが、正確な診断をするためには、エコー検査、CT検査、MRI検査などで画像診断をする必要があります。
また、以下のようなものは手術前に腫瘍の一部を取って調べます。
- サイズが大きい物(5~10㎝以上)
- 硬いもの
- 急速にサイズが大きくなったもの
- 痛みがあるもの
- 下層の組織にくっついているもの
- 深部組織のもの
- 大腿にあるもの
形成外科を受診して、診断してもらうようにしましょう。
粉瘤との見分け方
粉瘤は、皮下にできた袋状の組織に皮脂や垢がたまった状態のものをいいます。脂肪腫も粉瘤も、ドーム状に盛り上がったしこりができます。
ただ、粉瘤は中心部に小さな黒い穴があり、悪臭がすることが多いです。ともに、形成外科での除去治療が必要であるため、形成外科を受診する必要があります。
脂肪腫と脂肪肉腫の違い
脂肪肉腫は、悪性腫瘍(がん)であり、中年以降に発生します。でき始めには、脂肪腫と同じように痛みはありません。しかし、大きく成長する期間が脂肪腫と脂肪肉腫は異なります。
脂肪腫のしこりは、徐々に大きくなりますが、脂肪肉腫は数ヶ月で急速にしこりのサイズが大きくなる場合があります。
皮膚にできたものは痛みがない場合も多く、見た目では良性か悪性かを見分けることはできません。すみやかに形成外科の診察を受けることが重要です。
脂肪腫の治療法
脂肪腫の治療法は小さい場合には経過観察すればよいとされていますが、ただ放置しておくだけで、自然には治りません。大きくなってから治療すると、手術の傷痕が目立ち、手術に伴うリスクが高くなる可能性があります。ある程度の大きさに達したものは手術した方がよいでしょう。
以下のような状態になった場合には手術が必要です。
- サイズが大きくなった場合
- 見た目が気になる
- 痛みがある
- 服にひっかかる
脂肪腫の手術方法、手術後の注意点、治療費について解説します。
手術方法
摘出手術を実施する必要があり、日帰り手術に対応しています。ただ、腫瘍に悪性の疑いがある場合や全身麻酔が必要な場合などでは提携している大学病院などの大きい病院で治療する場合もあるでしょう。
脂肪腫の直上を腫瘍の直径に一致するように切開し、被膜を破らないように周囲の組織からはがして、摘出します。
手術後の注意点
手術翌日までは痛み止めを服用する必要があります。血行を促進してしまうと出血のリスクが高まるため、飲酒や運動は控えるようにしましょう。シャワーは傷の大きさや部位によるので主治医に相談する必要があります。
治療費
手術には保険が適用されるため、治療にかかる費用は、診察する回数にもよりますが、トータルで1〜2万円程度です。
まとめ
脂肪腫は、小さくて痛みがなければ経過観察でよいですが、放置しておいてもなくなりません。また、粉瘤や脂肪肉腫との鑑別も必要です。脂肪腫が小さい段階で他の皮膚疾患と鑑別するために早めに形成外科を受診するようにしましょう。
院長紹介
日本形成外科学会 専門医 古林 玄
私は大阪医科大学を卒業後、大阪医科大学附属病院、市立奈良病院を経て東京へ行き、がん研有明病院、聖路加国際病院で形成外科の専門医として様々な手術の経験を積んできました。
がん研有明病院では再建症例を中心に形成外科分野の治療を行い、乳房再建および整形外科分野の再建を中心に手術を行ってきました。聖路加国際病院では整容的な面から顔面領域の形態手術、また、先天性疾患、手の外科、全身の再建手術に携わって参りました。
この経験を活かし、全身における腫瘍切除を形成外科的に適切な切除を目指し、傷跡の目立たない治療を提供できればと考えております。