粉瘤の多くは良性腫瘍
粉瘤(アテローム)は表皮嚢腫とも呼ばれ、多くは良性の腫瘍です。
粉瘤の中身は老廃物
粉瘤の内容物は、皮脂や垢などの老廃物です。何らかの理由で皮膚の下に袋状の組織が形成され、そこに皮脂や垢などの老廃物が溜まることで発生します。
打撲や外傷に伴って発生する場合やニキビの痕にできることがありますが、原因を特定することは困難です。
また、脂肪細胞の良性腫瘍である脂肪腫と混同されますが、発生する原因や腫瘍の内容物が異なるため全くの別物です。
痛みや腫れを伴う場合は炎症性粉瘤
粉瘤を発症してすぐは、目立たず気にならないほどです。しかし皮脂や垢などの老廃物が溜まり、徐々に大きくなってくると独特の臭いが発生します。
状態によっては痛みや腫れを生じます。
このような場合、細菌感染により炎症を引き起こしている可能性があるため早期治療が必要です。
粉瘤の悪性化
粉瘤は良性の腫瘍ですが、まれに悪性化することがあります。ここでは良性と悪性の鑑別方法や粉瘤が悪性化したもので多い有棘細胞がんについて解説します。
良性と悪性の鑑別方法
身体にできた粉瘤が良性か悪性なのか鑑別するには、以下の項目を参考にしてください。
● 腫瘍が赤色に変化している
● 腫瘍が急速に大きくなっている
● 腫瘍の表面がかさついて硬くなっている
● 腫瘍がまだらに盛り上がり、しこりができている
● 腫瘍にただれや潰瘍(傷ができてえぐれている)ができている
● 腫瘍から液体が染み出している
● 腫瘍から悪臭がする
このような症状がある場合、粉瘤が悪性化している可能性があります。
なお、正確な判断をするためには皮膚の一部を切り取り、生検組織診断と呼ばれる専門的な検査が必要です。
粉瘤の悪性化「有棘細胞がん」
粉瘤が悪性化したもので多いのが有棘細胞がんです。有棘細胞がんは表皮の細胞が悪性化する中で、基底細胞がんに次いで発生頻度の高い皮膚がんです。
他にも、広範囲のやけど痕や慢性的な皮膚炎から発症しやすいといわれています。
また、日光にさらされやすい顔や頭皮などが好発部位です。有棘細胞がんが皮膚の表層部にとどまっていれば、他の部位に転移することはほとんどありません。
しかし、皮膚の深いところまで浸出するとリンパ節に転移しやすくなります。さらに肺や肝臓、脳にまで転移することもあります。
有棘細胞がんの治療法
有棘細胞がんの治療方法は、主に以下の3つの方法があります。
単純切除
有棘細胞がんの治療は、手術で切除するのが一般的です。単純切除術では、悪性化した部分を完全に切除することが重要です。
また、周囲の皮膚も一緒に切除する必要があります。
切除した皮膚は病理検査で詳しく調べられ、転移の可能性が疑われる場合には追加手術が必要になることもあります。
また切り取った皮膚の部分が広範囲の場合には、皮膚の再建術や他の部位から皮膚を移植することもあります。
放射線治療
がんが進行し内臓などに転移している場合は、手術適応になりません。
また切除が難しい場所に、がんが発生したケースや合併症などの理由で手術に耐えられない場合には放射線治療が適用されます。
放射線治療の副作用としては、疲労感や倦怠感、食欲不振、皮膚状態の変化があります。
化学療法
化学療法は、進行が著しく手術が難しい場合に適用されます。その他にも、がん細胞が血管やリンパ管を通して他の臓器や部位に移動した際にも積極的に選択されます。
また一般的に化学療法は手術前に行うことはありませんが、有棘細胞がんは化学療法でがんが小さくなる効果が期待できます。そのため、単純切除と併用されることもあります。
良性の粉瘤であっても放置してはいけない理由
粉瘤は良性の腫瘍ですが、放置すると身体に悪影響を及ぼします。
悪性化する場合がある
粉瘤の初期は痛みや腫れがないことや、皮脂や垢などの老廃物が溜まることで発生する良性腫瘍のため、放置していても健康を大きく損なうことはありません。
しかし、発症し長い年月が経過しているものや炎症を繰り返す粉瘤は有棘細胞がんなどに移行する可能性があります。
● 腫瘍が赤色に変化している
● 腫瘍が急速に大きくなっている
● 腫瘍の表面がかさついて硬くなっている
● まだらに盛り上がり、しこりができている
● ただれや潰瘍(傷ができてえぐれている)ができている
● 腫瘍から液体が染み出している
● 腫瘍から悪臭がする
このような場合には、早めに専門の医療機関を受診しましょう。
炎症を起こす可能性がある
粉瘤を放置すると細菌感染をして、炎症性粉瘤に移行することがあります。炎症性粉瘤に移行すると治療期間の延長や、治療費の増大が予想されます。炎症性粉瘤は、皮脂や垢の溜まった袋状の組織が周囲の皮膚と癒着するため、完全に摘出するのが難しいからです。
袋状の組織が少しでも体内に残ると再発の可能性が高くなり、治療期間の延長や治療費の増大につながります。炎症が強い場合は、抗生物質の内服や溜まった内容物を切開して排膿するなどして炎症が落ち着いてから手術します。
そのため治療を終えるまでに数ヶ月かかることもあり、治療費も高くなる傾向にあります。また炎症の程度には個人差があり、痛みが強くなると日常生活に支障をきたすこともあります。
粉瘤は自然治癒しない
粉瘤はニキビやふきでものと異なり、放置していても治癒することはありません。皮脂や垢が溜まった袋状の組織を取り除かなければ、再発するからです。袋状の組織を取り除く方法は、くり抜き法と切開法の2種類の手術方法があります。
くり抜き法はトレパンという特殊な器具を使って施術するため傷跡が小さく、短時間で手術することができます。
切開法はメスを使用し皮膚を切開し、粉瘤を丸ごと摘出するため再発する可能性が極めて低いという利点があります。
どちらの手術方法にするかは、事前にカウンセリングを行った上で選択します。
まとめ
袋状の組織に皮脂や垢が溜まって発症する粉瘤は、基本的に良性の腫瘍ですが悪性化することもあります。
良性と悪性の鑑別方法を参考にし、当てはまる項目があれば早めに専門の医療機関を受診することをおすすめします。また良性の粉瘤であったとしても、放置すると炎症性粉瘤や悪性の有棘細胞がんに移行する可能性があります。
炎症性粉瘤は治療期間の延長や治療費が増大する可能性があり、有棘細胞がんになると最悪の場合、命に関わることもあるでしょう。どちらにしても、粉瘤ができた時点で専門の医療機関を受診するようにしましょう。
当院は粉瘤治療専門のクリニックです。経験豊富な医師によるカウンセリングや、患者さまに寄り添った治療を提供しています。粉瘤ができて不安な方は、お気軽にお問い合わせください。
院長紹介
日本形成外科学会 専門医 古林 玄
私は大阪医科大学を卒業後、大阪医科大学附属病院、市立奈良病院を経て東京へ行き、がん研有明病院、聖路加国際病院で形成外科の専門医として様々な手術の経験を積んできました。
がん研有明病院では再建症例を中心に形成外科分野の治療を行い、乳房再建および整形外科分野の再建を中心に手術を行ってきました。聖路加国際病院では整容的な面から顔面領域の形態手術、また、先天性疾患、手の外科、全身の再建手術に携わって参りました。
この経験を活かし、全身における腫瘍切除を形成外科的に適切な切除を目指し、傷跡の目立たない治療を提供できればと考えております。